最初に羊文学をいいなと思ったのは、たぶん「光るとき」だったと思う。そこからいろいろ曲を聴くようになった。
今回、ラジオを聴いていたら石川でホールツアーをやることを知った。申し込んだのはかなり直前で、席は一番後ろ。そこまで熱心にライブ情報を追っていたわけではなかったので、本当にふらっと行った感じだった。
会場に入ってまず意外だったのは、思っていたより年齢層が広かったこと。若い人ばかりかと思っていたけれど、中年くらいの人も結構いて、羊文学ってこういう感じなんだなと思った。
曲はもちろんよかった。
ただ、最新のアルバムを出しているので、その収録曲を中心にやるライブなのかなと勝手に思っていたら、全然そういう感じでもなかった。「Feel」もやらなかったし、昔の曲も含めて、「すーーーはーーー」という今回のツアーの世界観に合わせて曲を選んでいるように感じた。
その「すーーーはーーー」が何なのかというと、呼吸らしい。
ライブの途中で、呼吸について塩塚さんたちなりの話があった。かなり感覚的な話だったので、正直、僕も全部理解したわけではない。
でも、そのMCのあとに聴いた「深呼吸」が、この日いちばん印象に残った。
曲自体は前にも聴いたことがあった。でも、家で曲だけを聴いていたときは、そこまで心に残っていなかった。
それが、本人たちが「呼吸」について感じていることを話して、その流れの中で曲が始まると、全然違って聞こえた。
何かを振り返るときも、ガチガチに意味を決めて振り返るより、一回深呼吸して、少し力を抜いて振り返った方が、いい思い出として残ったりするのかもしれない。そんなことをぼんやり考えながら聴いていた。
羊文学はあまりMCをしないイメージがあったし、以前ラジオか何かで塩塚さんが「コミュ障なんで」みたいなことを話していた記憶もある。
でも実際のMCは結構面白かった。
別に喋りがものすごく達者ということではなくて、無理に会場に合わせたり、格好いいことを言おうとしたりせず、感じたことをそのままポンと話している感じがよかった。
こういう刺さり方をするコミュ障もあるんだな、と思った。
全部の曲について長々と説明してほしいわけではないけれど、今回の「深呼吸」みたいに、その曲の前に少し本人の言葉があるだけで、曲が急に立体的になることがある。もう少しMCを聞いてみたいなと思った。
そして、ライブのもう一つの思い出が蒸しパンだった。
MCで塩塚さんが石川の食べ物の話をしていて、その中で金沢の蒸しパン屋さんが好きだという話になった。
「明日の朝行くから、みんな来ないでね」
みたいなことを言っていた。
ところが、会場にいる金沢の人たちも、どこの店なのか分かっていない様子だった。
僕も知らなかったので、家に帰ってから調べた。それらしい店を見つけて、翌朝、塩塚さんに会えたりしないかなという淡い期待も持ちながら行ってみた。
もちろん会えなかった。
ただ、店の前にはすごい行列ができていた。
古い家を改修したような、少しレトロでいい雰囲気のお店で、せっかく来たので、
「あるもの、一個ずつ全部ください」
と言って蒸しパンを全部買った。
店員さんも「今日なんでこんなに人がいるんだろう」という感じで、通りかかった人まで何事かという顔をしていた。
たぶん、並んでいた人のかなりの割合が前日のライブにいた人だったと思う。
それがなんだか面白かった。
ライブ自体は前日の夜に終わっているのに、翌朝になると、昨日まで知らなかった蒸しパン屋の前に人が並んでいる。
ライブを見て、曲を聴いて終わりではなくて、そこで聞いた一言から知らない店に行ってみる。そうすると、ライブが少しだけ日常の中に続いていく。
たぶん僕は、またあの蒸しパン屋に行くと思う。
そのときは蒸しパンと一緒に、羊文学のライブのことも少し思い出すんだと思う。





